【第2回】熱中症対策は健康経営の一環に|企業が今すぐやるべき義務と対応

健康経営コラム連載 第2回/全2回

著者:影石言光(ラグスタ株式会社)/
   理学療法士・作業管理士・メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種
企業の健康経営支援や労働衛生に関するコンサルティング・セミナーを行っています。

前回のおさらい:データが示した「増える件数、防げる重症化」

前回、全国および滋賀県のデータから、熱中症による労働災害の死傷者数が過去最多を更新する一方、死亡者数は法改正の効果もあって減少傾向にあることをお伝えしました。つまり、「発症を完全にゼロにはできなくても、重篤化は仕組みで防げる」というのが、データが語る結論です。

では、企業は具体的に何をすればよいのでしょうか。今回は、法改正への対応という「守り」の視点と、健康経営という「攻め」の視点の両方から、実務レベルの対策をお伝えします。

まず押さえるべき法的義務

2025年6月に施行された改正労働安全衛生規則では、熱中症のおそれがある作業を行う事業場に対し、次の3点が義務付けられています。

  1. 報告体制の整備:自覚症状がある本人、または異変に気づいた同僚が、誰にどう報告するかをあらかじめ定め、周知すること
  2. 措置手順の作成:報告を受けた後、誰が・どう対応するか(現場対応か、医療機関への搬送か)を事前に決めておくこと
  3. 関係者への周知:これらの体制・手順を、実際に作業する従業員全員が理解していること
厚労省の死亡災害事例分析では、「発症時・緊急時の措置手順の作成・周知が確認できなかった」事例が繰り返し指摘されています。対策の多くは、コストをかけずに「決めて、伝えておく」だけで実行できるものです。

ここに未着手の企業は、まず着手することが最優先です。

現場でできる具体策

制度面の整備に加えて、現場レベルでは次のような対策が有効です。

  • 暑さ指数(WBGT)の実測:気温だけでなく、湿度・輻射熱を含めた指数で管理する
  • 暑熱順化期間の設定:異動直後・新規入場者・久しぶりの出勤者には、初日から数日は負荷を抑えた作業配分にする(前回お伝えした「発症の5割が7日以内」というデータを踏まえた対応です)
  • 一人作業の回避、または巡視の徹底:発見の遅れが重篤化に直結するため、定期的な声かけの仕組みを作る
  • 基礎疾患への配慮:糖尿病や高血圧など、熱中症の発症・重症化に影響する疾患を持つ従業員への個別配慮

熱中症対策を「コスト」ではなく「投資」として語る

ここまでは、多くの企業が「義務だから仕方なく」取り組む領域です。しかし、健康経営の視点で見ると、熱中症対策には明確な投資対効果があります。

休業損失の回避

休業4日以上の労働災害は、当該従業員の生産性喪失だけでなく、労災保険料率にも影響します。一人の重症化を防ぐことは、直接的なコスト削減につながります。

訴訟・行政対応リスクの低減

重篤化事例の多くには、報告体制や手順の不備が指摘されています。体制整備は、万一の際の企業の説明責任・法的リスクへの備えでもあります。

採用ブランディングへの波及

「暑い現場でも安全対策がしっかりしている」という評判は、特に建設業・製造業・警備業など屋外・高温環境での採用において、応募者への安心材料になります。健康経営優良法人の取得を目指す企業にとっても、具体的な取り組み実績として提示しやすいテーマです。

予防だけでなく「復帰支援」の視点を

理学療法士としての立場から一つ付け加えたいのは、熱中症は「発症させないこと」と同じくらい、「発症後、無理なく職場復帰させること」も重要だという点です。

熱中症からの回復後、体調が万全でないまま通常勤務に戻ると、再発リスクが高まることが知られています。産業医や保健師と連携し、復帰後数日は業務負荷を調整する仕組みを持つ企業は、まだ多くありません。予防措置だけでなく、発症後のフォローアップ体制まで含めて設計することが、真の意味での「重篤化防止」につながります。

まとめ:小さく始めて、仕組みとして残す

熱中症対策は、特別な設備投資がなくても始められます。まずは、

  • 報告・対応の体制を文書化する
  • 全従業員に周知する
  • WBGTを測る習慣をつける

この3点から着手し、次年度以降、暑熱順化期間の設定や復帰支援体制へと広げていくのが現実的な進め方です。

自社の熱中症対策が現状どこまで整備できているか、法改正の要件と照らして確認したいという企業様は、お気軽にご相談ください。

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